『コーチとは自分を知ることから始まる』
刊行記念対談
コーチのあるべき姿を考えよう
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伊藤拓摩
プロバスケットボールチームGM
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鈴木良和
エルトラック代表

Bリーグ・アルバルク東京元ヘッドコーチで、この秋、長崎県初のプロバスケットボールチームGMに就任した伊藤拓摩さんに、監修した書籍の刊行を記念して、バスケットボールの家庭教師・エルトラック代表の鈴木良和さんと、「育成」をテーマにお話しいただきました。

取材・構成 直江光信

*この対談の模様は『コーチング・クリニック12月号』(2020年10月27日発売)でも掲載します。

伊藤拓摩

いとう・たくま

1982年生まれ、三重県鈴鹿市出身。中学卒業と同時にアメリカに留学。モントロス・クリスチャン高校4年時にバスケットボール選手からマネジャーに。卒業後に同校にてアシスタントコーチを務める。バージニア・コモンウェルス大学卒業。2009~16年に、トヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)のアシスタントコーチ、アソシエイトヘッドコーチ、ヘッドコーチを歴任。17〜18年日本代表サポートコーチ兼通訳。18年よりアルバルク東京・テクニカルアドバイザーに就任と同時にNBA Gリーグ所属のテキサス・レジェンズにて研修、アシスタントコーチを務める。20年9月、プロバスケットボールチームGMに就任。

鈴木良和

すずき・よしかず

1979年生まれ、茨城県出身。千葉大学大学院在学中の2002年に「バスケットボールの家庭教師」の活動を開始。株式会社ERUTLUCを立ち上げ、小・中学生を中心に、高校生から幼稚園児までバスケットボールの普及・強化に努める。「なりうる最高の自分を目指そう」を理念とするジュニア期コーチングの専門家。日本バスケットボール協会公認A級コーチ。日本バスケットボール協会U12・U13ナショナルキャンプヘッドコーチ、男子日本代表のサポートコーチも務める。『バスケットボールの教科書』シリーズなど著書多数。

どういうコーチを

目指したいのか理解しないと

人を教えることはできない

 

― 今回、伊藤さんが監修された『コーチとは自分を知ることから始まる』ですが、お二人にはどんなところが響きましたか。

伊藤 これは、バスケットボールのコーチであるデニー・カイパーさんが書いた本で、私がアシスタントコーチやヘッドコーチに就いたころから、何度も繰り返し読んできた一冊です。私が特に響いたところは、まずは自分がどういうコーチを目指したいのか、自分はどういう人間なのかといったことを理解しないと、人を教えることなどできない、という部分です。コーチは性格的に人に教えたい思いが強いので、人をどうするかばかりで、自分を振り返る機会が実はあまりありません。「なぜ自分がコーチをしているのか」を知らないと、どこかで壁にぶつかるし、選手に何かを伝えたとしても、口先だけで言っているようにしか聞こえない。この本は答えが羅列してあるのでなく、「自分を見直してごらん」という本なので、多くのコーチにとって自分を振り返るきっかけになると思います。僕のおすすめの読み方は、マーカーでハイライトをつける時に、毎回色を変えること。『この時はこんなことに悩んでたのか』といった変化に気づけると思います。

鈴木 僕が一番影響を受けた指導者は大学時代に教わった日高哲朗先生ですが、日高先生から何を学んだかと考えると、バスケットの技術や戦術はもちろんですが、何より人としての魅力、影響力でした。理念や哲学がしっかりしている人は人間力も大きくなって、だから影響力が大きくなり、コーチとして成功できるのだ――ということを、この本を読みながらあらためて感じました。

― 日本には技術書は多くありますが、この本のようにコーチングの本質を著した一冊は少ないですね。

鈴木 日本では、多くの指導者が下積み時代を過ごすことなく急にヘッドコーチになってしまいます。それが、理念や考え方を学ぼうというモチベーションを持ちにくい原因になっていると思います。なぜかというと、自分が使う言葉を強くして説得力を持って選手たちに話すために、「自分の信じていることは間違いないんだ」と思い込むことが一番簡単なんです。すると、信じていることが間違っているという情報には触れたくなくなる。でも本来は、いろんな考え方を知って、『その中で自分はこの考え方です』と意思決定することが、信念を強め、人間力を大きくすることにつながると思います。

 

選手に考えさせるコーチング

 

― ほかに、日本のコーチングの現状について、何か感じることがありますか。

鈴木 教えすぎる、というのは依然として大きな課題だと思います。日本トップレベルの選手でも、選手が『勝ち負けは自分たち次第だ』と感じているレベルが、海外に比べると低いと言われています。たぶん、育成年代でずっとコーチの言う通りにやる、指導者が教えすぎたことで依存型の選手が育っているという影響なのではないかと考えられています。

伊藤 サッカーやラグビーに比べると、バスケはコーチの声がすぐに届きます。また、試合ではクォーターごと、タイムアウトなどをしてコーチが指示できる機会が多いためオーバーコーチングが起こりやすいのかもしれません。ラグビーはコーチの声が届かない状況で選手が自分で考え、解決する文化が根付いていると聞いたことがあります。だから企業の社長に話を聞くと、ラグビー選手は引退後に仕事に就いても考えて行動できるし、プレゼンや営業がうまいと言っていました。バスケットはコーチの指示に沿ってプレーするので、そこは長い目で見ると悪い面かもしれません。

鈴木 バスケのコーチはよほど意識しないと、選手に考えさせるコーチングは難しいですよね。オーバーコーチングに気をつける、というのは本にも出てきました。ラグビーやサッカーはコーチが意識しなくても選手自身で考える状況ができますが、バスケはコーチがやろうと思わなければそうならないので。

「競争」という本質に

つながる練習をする

伊藤 情報量が増え、やる気のある人が学べる環境があるのは、変わってきた部分だと思います。ただ、情報が入ってくるぶん方法論が先行して、「バスケットの本質は何なのか」ということを忘れている指導者が多いとも感じます。たとえば「ピックアンドロールを教えて下さい」という人に「ピックアンドロールの目的は何ですか」と聞くと、方法論でしか答えられない。僕がアメリカで強く感じたのは、バスケットの本質は「競争」ということです。真剣に勝ちたいという競争の中で悩みや衝突があり、学びを得られる。育成年代の場合は、コーチが勝ち負けだけにこだわることはよくないですが、選手たちはあくまでも勝ちに、競争にこだわらなければいけない。もちろん、育成年代で勝ち負けにこだわりすぎるのはよくないですが、競争という本質が抜けると、何をやっても方法論にしかなりません。日本では対人練習が全体練習の半分もないチームが多いと聞きました。バスケットボールは5人対5人で行われ、激しいコンタクトとスピードの中で常に状況判断をするスポーツです。対人練習が少なすぎるということはバスケの本質の部分を練習できていないことになるのではないかと思います。

鈴木 逆に、子どもたちが試合中に自分たちで考えて、「ここで相手をブロックしたらうまくいくんじゃないか」と工夫したら、自然とピックアンドロールになった――ということもありますよね。現象としては同じプレーなんだけれど、コーチにやらされてやったのか、子どもたちが工夫してやったのかを見極めることも大切だと感じます。