『コーチとは自分を知ることから始まる』
刊行記念対談
伊藤拓摩
プロバスケットボールチームGM
鈴木良和
エルトラック代表

自分の強みとは? を考える

 

― 伊藤さんはこの秋、Bリーグ新規参入を目指すジャパネットグループが立ち上げる新設チームのGMに就任されました。

伊藤 「なぜB3のチームに行ったの?」「なぜコーチじゃなくGMなの?」ということをよく聞かれるのですが、一番の理由は、ジャパネットという会社が、いかに社会に貢献するか、地元の長崎に貢献するかということを本気で考えていて、地域創生によって日本がもっとすばらしい国になることを目指しているからです。そこが自分の目指すところにがっちりフィットした。だからいまはまだチームがなかろうが、B3だろうが関係ありませんでした。 

― 伊藤さんにとって、GMの仕事とは。

伊藤 ジャパネットでは「クレド」(ラテン語で「信条」「志」の意)という言葉を使うのですが、クレドを基にチームのミッションがあり、ミッションの達成に貢献する、クレドをコート上で表現できるチームを作るのがGMの仕事だと思っています。昨年、NBAのゴールデンステート・ウォリアーズがチェイス・センターというすごいアリーナを作ったのですが、ネーミングライツとシーズンシートの売り上げで、開幕前の段階で建設費を上回る収益を上げたそうです。ウォリアーズは『プレミアなスポーツチームから、プレミアなエンターテイメントとイノベーションを提供する企業へ』と方針を打ち出していて、それを表現するのがバスケットボールチームである、ということなんです。似たイメージで、会社の考え方やフィロソフィーがあって、それを表現するのがチームであり、そこに貢献できる選手やコーチ、スタッフを集めてフィロソフィーを浸透させ、表現できるようにするのが、GMとしての僕の仕事であると考えています。ところで本の中には、コーチが選手はもちろん、自分の強みを知ることが大事と書かれていて印象的でした。鈴木さんはご自身で会社を経営されていますが、経営者としての自分の強みは何だと考えていますか。

鈴木 これいいよ、と誰かにすすめられたら、素直にやってみる。『絶対こうじゃなきゃダメ』と凝り固まるのではなく、いいものは柔軟に取り入れるところですかね。逆に、伊藤さんの強みを、僕が分析してみましょうか(笑)。一緒に代表の仕事をした時に思ったのは、吸収力のあるスポンジなんだけど、中身がすごく詰まっている、ということです。いろんなものを取り入れる器の大きさがあって、その中に自分の芯もちゃんとある。体験を伴って身につけたものを持っている人って、感覚的にわかりますよね。いまの若い人は、多くの情報を見聞きしているからロジカルに語らせたらそこそこ説得力のあることをしゃべれます。でも自分で10年かけてやったというような体験を伴っていないから、言葉に重みがない。伊藤さんは自身で体験して作り上げてきた自分がちゃんとあるし、一方でいろんな影響を受け取ることもできる。それが強みだと思います。

伊藤 自分では、現状に満足しない、学びたいという姿勢が強みだと思っています。悲しいことやストレスになることがあっても、『これが何かの学びにつながるんじゃないか』と前向きにとらえられる。だから、ストレスになることがあると、すぐに「どうやって学びに変えようか」となるんです。本当はしっかり受け止めて、とことん落ち込むことも必要なのかもしれませんが、せっかちだしそこまでの強さはないので(笑)、1秒でも早く切り替えたい。そこは逆に、弱みなのかもしれませんね。

未来に向けて

― 最後に、お二人はコーチとしてGMとして経営者として、日本のバスケットボール界が今後どのように発展していってほしいと考えていますか。

鈴木 僕はスポーツを教える仕事をしていますが、今の子どもにはスマホやゲームもあるし、塾や習い事もあるというように、多くの選択肢があります。その中で子どもたちがスポーツをしたいと思ってくれるためには、スポーツを教える人間の価値を感じてもらうことが必要で、そのためにはいかに子どもたちに楽しいと思ってもらえるか、保護者にそうしたコーチに出会わせたいと思ってもらえるかが重要になります。指導者が魅力的な環境を作って魅力的なコーチングをして、スポーツをしたいと思う子が増える。そしてその子たちがスポーツを通じていろんな経験をして、成長する。ロボットやAIが急速に発展している現在の社会の先に、そうした文化を根付かせていけるか。いまの時代の流れは、人と人の関わり合いが薄くなる方向に進んでいます。だからこそスポーツという場所が魅力的でなければならない。バスケットは同じ空間で一個のボールを共有してやりあうことが楽しさですから、人が集まらざるをえません。そういう人間らしい部分が魅力的であり続けることが、今後時代が進んでいく中でのスポーツの価値になると感じています。

伊藤 かつてある人に当時のバスケリーグJBLについて、『このリーグやチームにどういう社会的意義があるの?』と聞かれたことがあるんです。医学なら人の命を救うというわかりやすい意義がありますよね。でも「このリーグは千人くらいの観客が喜ぶことと、バスケットをずっとやってきた人の受け口でしかないんじゃないか」と言われて。すごく悔しかったけど、納得させる答えができなかった。たとえばNBAがなくなったら、多くの人が困ります。経済的な面はもちろん、子どもたちが夢を描く上でも大きな貢献をしている。いまBリーグができて、日本の選手も最近はそうしたことをすごく理解できるようになってきていますが、もっと自分たちが何をできるかを考えていく必要がある。社会に貢献したいという人がバスケット界に増えて、バスケットの価値が上がり、いろんな人が『バスケットっていいよね』と感じるようになれば、バスケットが社会になくてはならない存在になる。そういう点がアメリカのスポーツ界はすごいし、その方向を目指していくべきだと思っています。

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